毎月1点アンティークの逸品をご紹介します。

夢織のおすすめ

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コモード
表面が立体的なのは「ボンベ」型、
平面なのは「セルパンティン」型と呼ばれる

トロフィー
古代ギリシャ時代では、戦利品がモチーフとなっていたが、ロココ以降は楽器や花束の装飾に変化した。

月桂冠
月桂樹のリースは、勝者の象徴であった。
左:初代ローマ皇帝アウグストゥス
右:皇帝ナポレオン1世

太陽王
太陽神アポロンに扮したルイ14世。自らを太陽王と称した。
左:アポロンに扮してバレエを踊るルイ14世
右:ヴェルサイユ宮殿には、太陽王のモチーフが多数見られる

ルイフィリップ
ルイ14世様式象嵌ブロンズコモード

1830年代 フランス

「コモード」とは、私たち日本人にはあまり聞き慣れない言葉ですが、ヨーロッパの代表的な装飾家具のことで、お城や大邸宅に見られるものです。
17世紀の昔、ルイ14世お抱えの宮廷家具作家アンドレ・シャルル・ブールが発明した豪華な調度品で、元々は便利な化粧台だったのが、天才作家ブールによって王にふさわしい家具に改良されたのです。
宮殿内では主に、豪華なコーナーカップボードと対で設えられました。ミラーや絵画の下に置かれ、しばしば美しい庭が一望できる窓辺の壁際に配置されました。天板の大理石の模様は、マントルピースに使われる大理石と揃えられて愉しまれました。

今月の夢織のおすすめは、1830年代のフランス製、ルイ・フィリップ王時代のルイ14世様式象嵌ブロンズコモードです。
細部のブロンズ細工や前面に施された象嵌細工が、ため息を誘う、まさにマスターピースと呼ぶに相応しい逸品です。ブールの時代には見られなかった、この優雅で華麗なたたずまいには、さぞかしブールも嫉妬することでしょう。それでは細部をご紹介します。

幅106cm、奥行53cm、高さ85cmの華奢な姿ですが、表現豊かな装飾表現の効果で、実際のサイズより大きく感じます。

天板は分厚い大理石。バラ色・緑かかったグレイ・ゴールド・象牙色………色彩が波のように折り重なり、美しい風景を作り上げています。

それでは細部を見ていきましょう。

         

太陽を表現しているというロゼット(薔薇紋)を、C字型を描きながら繋ぎ、連続するブロンズの意匠。

本作品のように表面が平坦なコモードは、「セルパンティン型」と呼ばれ、装着された数々のブロンズ細工を美しく目立たせています。

             

中央正面の花の象嵌。ウォルナットの杢を背景に、薔薇・スミレ・マーガレット・チューリップ・ダリア・水仙………百花繚乱です。季節を第一に考える私たち日本人とは異なり、ヨーロッパの人々は、季節は問わずに最も美しい状態で咲いている花々を集めて表現します。たおやかな茎の曲線が美しく、幻想的な杢の木肌と響き合います。
ヨーロッパでは、大航海時代にインドやアジア、南米からマホガニー、ローズウッド、エボニーなど珍しい銘木が入手できるようになり、木彫技術に変革がもたらされます。
象嵌細工技術がヨーロッパで向上したのは、16世紀。イタリアのフィレンツェ、現在のベルギーはフランドール地方で優れた象嵌技術が磨かれました。やがて17世紀にフランスに渡り、象嵌細工を極めた職人達が、エビニシテ(フランス語でエボニー専門家=家具職人)と呼ばれるようになりました。
エプロン部分には、豊穣の瑠祥文様ザクロ文が装着されています。旧約聖書のソロモン王の時代には、王冠を頂く果実として権力を象徴し、宮殿の柱にデザインされていたそうです。
側面の放射線状に木目が広がる象嵌は、ダイヤモンドリバースマッチ(逆ダイヤモンド象嵌)です。

          

2段の引き出しに付けられた鍵穴。見ると、カルトゥーシュで囲まれ、フェストゥーン(花綱)で装飾されるという贅沢さ。2段の引き出しのコモードは、ルイ14世時代に見られるデザインの特徴です。

          

引手には、月桂樹のリース(月桂冠)。月桂樹は太陽神アポロンの霊木として崇められていました。中心に太陽を表す薔薇紋を据えています。太陽王ルイ14世は、自らをギリシャ神話の太陽王アポロンの化身として、ヴェルサイユ宮殿に数々のモチーフを装飾させました。

       

両脇に見える、フラッグのようなブロンズ細工。花綱や月桂樹の葉にインスパイアされたという、モール状に下がるU字型のスワッグと呼ばれる装飾モチーフが見られます。
コモードはブールによって作られ始めましたが、ブロンズ細工を家具に装着することを広めたのも、またブールです。元々は、家具の角などダメージを受けやすい部分を保護する目的でしたが、次第に家具装飾に欠かせない要素として発展しました。
本作品のブロンズ細工は華麗を極めていますが、本作品のようなルイ・フィリップ時代のものは、ブロンズ細工の装飾性が向上した時代であり、ボリュームのある装飾が好まれました。

       

左右の扉にはバラやスミレと共に装飾される楽器のトロフィー。向かって左の扉には、バロックオーボエ、バグパイプやパンパイプといった笛類、右にはリュートやタンバリンが見えます。
四隅には、不思議な円形のブロンズ装飾。見ると、アカンサスの葉が四つ巴になっています。

            

S字型に曲線を描くカブリオールレッグ。アカンサスのブロンズ細工が、ほぼ全面を覆い尽くす豪華さです。
天才作家ブールの残した王だけのためのコモードという家具は、後世に受け継がれ、19世紀には上流階級のくらしに欠かせない調度品となりました。
紋章を描いたステンドグラス、有田焼の対の壺を飾ったマントルピース、歴代当主の肖像画、自慢の名画の下に置かれたコモード、豪華な装飾芸術品の数々………。
この美しいコモードが時を超えてここにもたらされ、私たちの心を捕えて離さないのは、ヨーロッパの歴史や文化の豊かさばかりではなく、家具を制作した人々・家具と共に暮らした人々の、誇りと信念の素晴らしさを、静かに語り掛けてくるからです。

              

フェストゥーン(花綱)
花綱の文様は、ヨーロッパの装飾モチーフに欠かせないデザイン。古代ローマでは動物モチーフが組み合わされたが、ルネサンス以降はプット(天使)が綱の両端を持っているパターンが見られる。

四つ巴

ロゼット
薔薇紋と呼ばれるロゼットだが、薔薇とは関係なく、太陽の光条を表現した文様。本品のロゼットは、古代ギリシャのパターン。

左:ヤン・ブリューゲル
「壺の中の小さな花束」
右:アンブロシウス・ボスハールト

「花束」
花への関心

大航海時代の17世紀のヨーロッパでは、異国からもたらされる様々な珍しい花への関心が高まり、数々の名画が生れ、装飾芸術へ影響を及ぼした。